
ベトナムにある6つの世界遺産のうち、実に5つが中部ベトナムにある。チャム王国の聖地・ミーソン遺跡、海のシルクロードの拠点だったホイアンの旧市街、ベトナム最後の王朝が置かれた古都・フエの王宮と宮廷音楽。そして、世界でも最長と言われる地底川があるフォンニャ・ケバン洞窟。それらの世界遺産を訪ねる、中部ベトナムの旅に出かけてみよう。
ミーソン遺跡 - My Son
かつてこの地で栄華を極めた海洋民族・チャムの聖地・ミーソン遺跡は山ふところ深くひっそりと眠っていた
ミーソン遺跡では、グループAからHまでに分類された遺跡群が、1本の遊歩道で結ばれており、迷ったりする心配なく遺跡散策を楽しむことができる。
散策時には、壁面に施された装飾に注目したい。ここがチャンパ王国の聖地であった900年の間に、その時々の勢力の盛衰を反映して、装飾が細かくなったり簡素になったりと、様々な変化を見せている。いろんな年代の遺跡があるここでは、それらを一度に見ることができる。
チャム塔の中に入ってみると、これらの塔が柱や棟柱を使わずに建てられていることに気が付くだろう。そのため屋根はレンガを少しずつ、ずらして作られた。これもチャンパ建築様式の特徴の1つだ。
また見ただけでは分からないが、これらのレンガを積み上げる際には、セメントなどの接着剤を使っておらず、レンガとレンガの間には隙間がない。どのようにして、レンガを接着させ強度を確保しているのかに関しては諸説紛々。ある高名なチャム研究者は、その謎を解明したとして、ダナンにある「アプサラ」レストランの中に、自分の学説を実践してチャムの塔を建てているが、まだその謎は100%解明されたわけではないと言う。
そのような理屈はともかく、周りを山に囲まれた緑豊かな盆地に、静かに眠る数々の遺跡群は厳かな空気に包まれており、その間を歩いているだけで、神秘的な雰囲気に浸ることができるだろう。
世界遺産登録年:1999年
ホイアン - Hoi An
海のシルクロードの拠点として栄えた港町。当時の面影を残す路地裏には、歴史の香りが漂う
多くの人が口を揃えて言うように、ホイアンは町の雰囲気そのものが一番の魅力。観光チケットで指定されている伝統家屋や博物館を訪れるだけではなく、名もない路地に迷い込んでタイムスリップような気分を味わってみたい。
町歩きは、ホイアンの象徴にもなっている来遠橋から始めてみよう。この橋の外側には、200年前に建てられたという伝統家屋・フーンフンPhung Hungの家がある。ベトナム、中国、日本と3つの様式が混交された建物。その向かいにあるサンヒエンも伝統家屋で、ここはホテルにもなっている。
フーンフンの家から来遠橋を渡って旧市街の中心部に入る。まずはチャンフーTran Phu通りを歩いてみよう。サーフィン文化博物館、海のシルクロード博物館(貿易陶磁博物館)、福建会館、ホイアン歴史文化博物館などがある。雰囲気がにぎやかになって来たら、そこはホイアン市場だ。市場の手前を右に曲がり川の方に向かって歩いて数分、右手にグエンタイホック通りが始まる。この通りにも見所が多い。伝統音楽や手工芸のワークショップ、夜には伝統音楽が聴けるホイアンシアターなどがあるほか、レストランやカフェも多い。左手に川が見えてくると、町歩きの出発点、来遠橋はもうすぐ。
チャンフー通りを東に歩き、グエンタイホックを西に戻るこのコース。単純に距離だけを計算すれば、わずか1キロほど。でも、このコースを歩くだけで1日たっぷり楽しむこともできる。
世界遺産登録年:1999年
フエ - Hue
ベトナム最後の王朝・グエン朝の都が置かれた古都。通りを行く人に街路樹が優しく木陰を差し伸べる
王宮巡りは、午門から始まる。正午にこの門の真上に太陽が来ることから、この名前がつけられた。皇帝以外はここを通って出入りすることは許されなかったという。門の2階にも登ってみよう。ここからは、外には王宮の周りを囲んで水を湛える濠、内には太和殿の雄姿を見ることができる。
門から降りたら太和殿を見学しよう。皇帝の即位式が行われたというこの建物の中は、太い円柱によって大きな屋根が支えられた豪快な雰囲気を醸し出している。
太和殿を見たら、午門を背にして左に伸びる、緑豊かな小径を進もう。間もなく、応祥門という名前が掲げられた、小さな門が左手に現れる。これをくぐると顕臨閣だ。ここはグエン王朝歴代皇帝たちの菩提寺。9人の皇帝の名前が記された9つの大きな鼎(かなえ)がある。それぞれの鼎は、皇帝たちのイメージを表現しており、そのデザインの違いを見てみよう。
顕臨閣から王宮を南北に走る縦の道を5分ほど歩くと、長生殿が左手に見えてくる。これは初代皇帝のザーロン帝が母親のために立てた建物。戦争で破壊された部分と、新しく建て直された建物との対比が痛々しい。
長生殿の前にも、建物があったが戦争で破壊され、現在は瓦礫を残すのみの草原となっている。その向こうに見えるのは皇帝劇場。ここでは世界無形遺産に登録された、宮廷音楽と舞踏をぜひ見てみよう。皇帝劇場を出て右に歩くと、間もなく午門が見えてくる。街路樹からもれてくる木漏れ日が優しい王宮の散歩を楽しんで欲しい。
世界遺産登録年:1993年
フォンニャケバン洞窟 - Phong Nha
世界最長の地底川がある自然の作り出した神秘と脅威。地底から聞こえてくる風の音に耳を傾けて。
フォンニャ洞窟の中を流れる地底川。舟の漕ぎ手が水を打つオールの音が、高い天井にこだましてかすかに響く。耳をすますと、どこか遠く地底から風の音が聞こえてきた…。世界最長とも言われる地底川を小舟で回るフォンニャ洞窟観光は、神秘でいっぱいだ。フォンニャとはベトナム語で「風の牙」の意味。巨大な怪獣の牙のように見える鍾乳洞、そして地底から吹いてくる風を恐れ崇めた昔の人々が、こう名づけたのだという。
フォンニャ観光は小舟に乗って、大きな岸壁の下にぽっかりと口を開けた入り口から洞窟に入る。洞窟の中はところどころライトアップされているが、不気味な雰囲気だ。20分ほど進んだところで舟を降りる。砂丘のような丘を登ると柵があって、そこより奥に行くことはできないが、ここから左手の壁に書かれた古代文字を見ることができる。これはチャム族の文字だと言われ、チャンパ王国の北限がこの辺りであったことを示している。
いったん舟に戻り、洞窟の入り口に向かう。途中、再び上陸し、巨大な鍾乳石が上から下から、にょきにょきと生えている洞窟を見学しながら、徒歩で洞窟の入り口まで戻ってくる。地底を巡る神秘の旅は、所要約1時間。
フォンニャ観光では、もう1つ、山の上にあるティエンソンTien Son洞窟もセットになっている。500段以上の急な階段を登るので大変だが、時間と体力に余裕がある人は、これもコースに加えたい。
世界遺産登録年:2002年
(『ベトナムスケッチ』ベトナム中部の世界遺産特集より)